好奇心は脳を活性化させ、何歳になっても脳を成長させることがわかっています。前回の「好奇心が仕事を楽しむためカギである4つの理由」に続き、フォーブス・ジャパンに掲載されたJeff Boss氏の好奇心の効用についてのお話をご紹介します。
「好奇心」がリーダーシップにもたらす4つの効果
好奇心を持ってものを尋ねることは、人に教えを請うことでもあり、好奇心と謙虚さは密接に関係しています。その好奇心がリーダーシップに及ぼす4つのプラスの影響を挙げてみると・・・。
1.能力を増幅させる
“知りたがる“ということは、今ある知識と、有能な人物になるために知る必要があることの間に知識の格差があることを意味します。物事の文脈を欠いたり、コミュニケーション・プロセスの不備で知りたいことへの答えが得られないことは、努力の重複や期限超過につながります。逆に、情報の共有は人々の疑問に答えを提供し、彼らの仕事の能力を増幅させる。詳細な情報がなくても、方向性や指針を示すだけで十分に、人々が自信を持って意思決定を下せるだけの環境を提供し得るのです。
2.新しいものを生み出す
効果的な質問をする上で必要なのが、謙虚さと自信のバランスをとることです。自分が全ての答えを知らないことを認識するだけの謙虚さと、それを認めることができるだけの自信が必要なのです。しかし残念なことに、謙虚さも好奇心も、リーダーシップにおいては“弱さ”と見られることが多いのです。幹部や重役は知識の欠落を認めるべきではないと。でも、現状からは何も新しいものは生まれない。革新も気づきも、問題解決も価値の創造も、さらなる探査を駆り立てる問いかけをせずには生まれないのです。たとえば故スティーブ・ジョブスは、決して決めつけを行わなかったといいます。彼はどんな問題にも旺盛な学習欲をもって取り組み、そのためには質問もしたのです。経営学者ジム・コリンズも、最も有能なリーダーたちは謙虚さと強い決意をあわせ持っているとしている。
3.成長を促す
スタンフォード大学の教授で「やればできる!の研究/能力を開花させるマインドセットの力」の著者であるキャロル・ドゥエックは、優れた成果をあげる人とそうではない人の違いは、マインドセットが「硬直型」か「しなやか型」かにあると発見。硬直マインドセットの人は、人の能力は生まれつき決まっていると考え、しなやかマインドセットの人は、能力は努力次第で伸びると考えました。
ここで成長を促すのが好奇心です。硬直マインドセットの人は、答えが見つからないとすぐに諦めるけれども、しなやかマインドセットの人は答えが見つかるまで、問いかけを続けて答えを探し続けるからです。
4.適応能力をはぐくむ
人にものを尋ねることは、新たな可能性を探求し、当たり前になっていた偏見や思い込みを掘り起こして“新しい角度”から見るための対話を促します。好奇心がなければ、新たに適応する「対象」がありません。
好奇心は力強いリーダーシップを実現するのに役立ちます。「○○をより良く実践するにはどうしたらいいか」という問いかけは、その前に「私たちはそもそも、なぜ○○をするのか」という問いかけがなければ役に立たないからです。結果を重視することは大切ですが“正しい”問いかけをすることは、あなたを確実に正しい道に進ませてくれます。
脳の活性化には好奇心が効く!
東北大学加齢医学研究所の瀧 靖之教授は「大人の脳と習い事」中で、次のように好奇心を促すお話をされています。
加齢とともに、脳内では少しずつ神経細胞が脱落していき、脳の体積が萎縮していきます。それに伴い、認知機能も低下していきます。これは自然な老化で、病気によって引き起こされる認知症とは違うものです。健康な人でも、加齢による脳の萎縮は避けることはできず、20代後半から認知機能は落ち始めているといわれます。一番早く萎縮が始まるのが「前頭前野」。思考や判断、コミュニケーションといった高次認知機能に支障が出てきます。
趣味や習い事には、こうしたことを抑える効果があります。「リタイアしてから」などと悠長に構えず、今すぐに始めてみましょう。
また、仕事一辺倒の生活は脳の海馬(記憶を司る領域)や扁桃体(感情を司る領域)に悪影響を与え、記憶力や気力を低下させます。だからこそ、好きなことをして「楽しい」と感じる時間は大切。楽しい気持ちで脳はリラックスします。仕事や人間関係からくるストレスを解消するためにも、趣味や習い事はおすすめです。
脳を活性化させる3要素
脳を活性化させる3要素には、運動、コミュニケーションと並んで知的好奇心が挙げられます。趣味や習い事に夢中になると、好奇心がかきたてられます。「楽しい」と感じると、脳は神経伝達物質のドーパミンを分泌。ドーパミンには記憶力を高めたり、やる気を出させたりする働きがあり、高次認知機能が活性化されることがわかっています。
すでに趣味がある人は、そのまま続けましょう。「自分には趣味がない」「何を習えばいいかわからない」という人は、次のようなことがきっかけになります。
◆憧れていたことをやる
「ギターを弾きたかった」「絵を描きたかった」など、子どもの頃に憧れていたことを始めましょう。懐かしい風景やモノもきっかけとなります。「そういえば、おじいちゃんと一緒に畑仕事をしたな、懐かしいな」と思ったら、家庭菜園を始めてみるのもいいでしょう。
◆昔の習い事に再チャレンジ
「モノにならなかった英会話」「1週間で飽きたお習字」……。誰にでも挫折した経験はあるのでは。長いブランクがあっても、一度でも触れたことがあれば、意外と体が覚えているものです。まったく新しい趣味・習い事に挑戦するより、ハードルは低いといえます。
◆友だちや家族をまねる
例えば「写真を撮りたい」と思っても、カメラの機種や操作がわからない。そういう場合は、カメラを趣味にしている人を見つけて教えてもらいましょう。山登りが趣味の友だちに連れていってもらう、家庭菜園が趣味の家族を手伝うなど、とりあえず“人まね”から入るという手もあります。
◆旅行
やりたいことが見つからない人には、旅行がおすすめ。誰かと一緒でも一人でもOK。わざわざ遠くに行かなくても、沿線一人旅でも発見はたくさんあります。旅行は準備から実際の旅先、帰宅後まで、やることが盛りだくさん。好奇心が刺激され、体を動かし、人との交流も生まれるなど、脳にいいことずくめです。
◆料理
食べることや飲むことが好きな人は、料理に挑戦してはいかがでしょう。メニューを考えて材料を選ぶ、手先を使う、食卓を囲む……と、料理は脳の活性化にもってこい。料理は同時に複数の作業を行う必要があるので、さまざまな脳の機能が鍛えられます。
続けるコツは楽しむこと
脳は楽しんでいるときに最も活性化されます。「脳にいいから」と修業のように取り組んだり、苦手なことをイヤイヤやったりすると、かえって脳にストレスを与えてしまいます。例えばランニングなら、雨の日は休んでもいいし、気分がのらなければ別の日にするなど、無理せず行いましょう。
「やっぱり合わなかった」と三日坊主で終わってもかまいません。一歩踏み出したことはまぎれもない事実で、「やってみた」という経験は残ります。それに趣味・習い事は世の中に無限にあります。一つがダメならほかのものを試してみるうちに、必ず「これだ」というものが見つかるはずです。