🔴エイジングと3つの力  

加齢に伴い、今まで見えなかった風景が見えるようになったとき、人は心のなかで3つの力を育て始めると言われています。大阪大学の佐藤眞一先生によると、

1つめは、深い「内省力」——失敗や挫折の経験をただ悔しがったり、人のせいにしたりせず、静かな心で振り返れば、今の自分を認める気持ちになる。

2つめは、「知的好奇心を深める力」——あれもこれも気を配らねばならなかった年代を経て、ふと立ち止まる時間ができたとき、ようやく自分のために何かを学びたい、深めたいという気持ちが湧いてくる。

3つめは、「感謝する心と、それを伝える力」——今、こうして今日一日を無事に終えられたこと、それがとても大切で幸せなことだと感謝し、周りの人にありがとうと伝えたくなる。

こうした力が、人と比べることなく、自分らしく生きていればいいという、揺るぎない自信と品格を生みだし、人としての円熟味を増していくのではないかと示唆されています。

🔴エゴレジの中年期研究から

発達段階としての中年期に最も特徴的な点は,成長,加算,完成,獲得が優勢な時期と,衰え,制限,喪失が結びつく時期の間に位置していることです。中年期では,成長と衰退の両方に対処しなければならないわけですが,中年期はそれまで蓄積されてきた心理的資源の恩恵も享受できるのです。その心理的資源の1つは,柔軟に自我を調整し,内的・外的ストレッサーにうまく対応ができるエゴレジ力です。

もう1つの心理的資源は、物事への対処方略です。心理学では、自分の欲求や願望に沿うように周りの世界を変えようとすることを「一次的コントロール」、現実の世界に合うように自分の内面を変えることを「二次的コントロール」と呼びます。加齢とともに、外の環境を変えるだけの力が自分に残されていないと自覚するようになると、ネガティブな状況に遭遇したとき、無意識のうちに「二次的コントロール」を多く行うようになります。たとえば、

  • 嫌なことも自分の成長のためだと考える
  • この出来事から何かを学びとろうと考える
  • 自分の人生において意味のある経験になると考える
  • この出来事のおかげで自分に得られるものもあると考える

といったような対処方略で、いわゆる「折り合いをつける」力です。そうして、ネガティブな状況から受けるストレスを解消して、自分の状態をポジティブに保とうとするのです。この対処方略の切り替えにも、エゴレジ力が関わっていることが、多くの研究で明らかになっています。

知的な能力や記憶力は加齢とともに衰えていきますが、理解力や洞察力といった結晶知能や、近い将来に関する展望的記憶は、これまでの実生活で訓練を積んできているので、むしろ若い人たちよりよくなることが分かっています。知的な能力は、思考する、経験することで鍛えられるところがあるのです。

サクセスフル・エイジングという研究分野もあります。歳を重ねることは、決してネガティブなことではないことを多くの研究者が実証しています。

🔴年代ごとに深めていきたい課題

先にあげた佐藤真一先生が、それぞれの年代でクリアしていく課題とヒントをあげておられるので、ご紹介しておきます。現在の自分からは遠い世界のようでも、10年後、20年後の課題を知っておくことも大切です。もちろん、どの年代の課題をクリアするにも、それまでに培ったエゴレジ力が貢献してくれるからです。

50代 第二の人生の開幕に向かい準備する年代
60代 もう一度、本当の自分に気づく年代
70代 人とのつながりと継承を考える年代
80代 内なる精神世界をさらに深めていく年代
90代 ここからは生活の雑事から卒業し、笑顔で人生の英知を伝えていく年代

 

いかがでしょう?

見かけは一年前の若々しさを保っている自信があり、そんなに変わっていないと思っていても、内なる精神世界では何かしら加齢の恩恵を受けていることもあるはず。「人格的に穏やかになってきた」「人の気持ちに寄り添えるようになった」「誰かのために役立ちたいと思うようになった」など、一年経って自分のなかで熟した実りの賜物はありませんか?エゴレジ力をつけて、上手に歳を重ねましょう。